多言語共存のライフスタイルが作品に〜シベ書道展開催記念〜 児倉徳和准教授インタビュー

2019年11月18日(月)から11月28日(木)の期間、アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)の1階資料展示室において、「シベ書道の世界―格吐肯書法展―」が開催されます。会期中にはシベ語書道家の格吐肯氏による講演会や展示解説ツアーも予定しています。外語祭(11.20-24)期間中の開催ですので、外語祭にお越しの際はぜひ同書道展にもご来場ください。

今回のTUFS Todayでは、同書道展の開催を記念して、企画者である児倉徳和准教授(AA研、専門分野:記述言語学、シベ語)にインタビューしました。インタビュアーは、山越康裕准教授(AA研、専門分野:記述言語学、モンゴル諸語)です。

左:山越康裕准教授 右:児倉徳和准教授

シベ語ってどんな言語?

山越准教授(以下、「山越」) 私は専門地域が近いので、シベ語のことはある程度は知っていますが、日本では「シベ語」という言語を初めて聞く方も多いと思います。まずは、シベについて簡単に教えていただけますか。

児倉准教授(以下、「児倉」) シベ語は、中国の少数民族「シベ族」が話す言葉です。「シベ族が話す言葉」と言っても話せる人も少なくなっている、いわゆる「危機言語」です。シベ族は、元は中国東北地方に住んでいた民族で、清朝時代(1636-1912年まで現在の中国とモンゴルを支配した王朝)に一部の人々が国境警備のために現在の新疆ウイグル自治区に移住をしています。現在も中国東北地方にもシベ族が暮らしていますが、残った人たちはシベ語をもう話していません。新疆ウイグル自治区の端、カザフスタン国境近くのイーニン(またはイリ)やチャプチャルというところに暮らしています。市外局番が「0999」というくらい辺境です(笑)。

シベ文字の特徴は?

山越 「シベ書道」とのことですが、文字はどんな文字なのでしょうか。

児倉 シベ文字は、満洲文字を基にして作られた文字です。満洲文字は、モンゴル文字を基にしているので、モンゴル文字、満洲文字、シベ文字は、よく似ていますね。シベ文字は、文字が繋がったような体型をしていますが、単語ごとにひとつの子音または母音を表す個々の字形を縦線でつないでいく形態をとっています。縦書き文字で、右から左に書き進めていく日本語と違って、左から右に書き進めていきます。

山越 アラビア文字は、横書きで右から左に上から下に書き進めていきますが、それをクルっと左に90度回したイメージですね。モンゴル文字もそうですが、左から右に書き進めるので、手が汚れなくていいんですよね。

児倉 私は左利きなので汚れるんですが(笑)。

山越 シベの人々はまだシベ文字を使っているのですか。

シベ語の教科書と新聞

児倉 チャプチャルでは、小学校1年生から4年生まで、シベ語の授業のなかでシベ文字を勉強しますが、それ以降は勉強しなくなり、日常的な書き言葉としては中国語を用いています。そのため、ほとんどの人が忘れてしまい、話せる人も少なく、文字が読める人はもっと少ないですね。それでも、中国政府からの補助金もあり、シベ語で書かれた新聞や文学作品は、細々とですが、発行されていますね。

シベ語研究を始めたきっかけ

山越 ところで、児倉さんは、なぜシベ語を研究しようと思ったのですか。

フィールド調査の様子

児倉 学部生の頃、指導教員のウイグル語の授業に出席をして、ウイグルは多民族でいろんな言語が話されていて面白いところだなと思い、新疆ウイグル自治区では他にどんな言語が話されているのだろうと興味を持ったのがきっかけでした。そこでシベ語に出会って、先生に相談したところ、「日本に話者が見つかるならやってもいいんじゃないか」と言われ、調べたら東京からも通えるところに話者がいることがわかり、シベ語を研究することにしました。

山越 シベ語研究の面白いところは?

児倉 同じ言語系統でも文法の構造が違っていて、言語を研究する者としては面白いですが、あとは、シベではもうほとんど話されていないのに、シベ族が移民した移民先ではまだ話されているところも面白いなと思います。研究を始めた頃は、とにかく話している生の言葉を聞いて、書き起こして、それをもとに研究するのが楽しくてしかたなかったですね。

シベ書道の特徴

山越 シベ語についていろいろと伺ったところで、シベ書道について伺えたらと思いますが、シベでは、やはり日本の小学生のようにシベ語の書道を授業でやったりするのですか。

児倉 いえ、シベ書道をやる人はほとんどいません。つい最近まで、今回の書道展の作品の書道家の格吐肯さんしかシベ書道をやらないですね。格吐肯さんは、現在74歳でシベ書道の第一人者ですが、お弟子さんもいなく、今後継承されるのか・・・。

山越 私もフィールド調査に行きますが、その時にモンゴル文字の書道家と出会える機会をあまり想像できないのですが、どうやって知り合ったのでしょうか。

児倉 格吐肯さんは、シベ族の間では知らない人はいないくらい有名な書道家です。中国全土でもかなり有名な方で、書道関係の協会の役員などもされている方です。昨年、私がオーストラリアに在外研究に行った際に会った移民のシベ族の方が、格吐肯さんの作品のコレクターで、その方に紹介してもらいました。

山越 シベ書道のここが面白い、と思うところはどんなところですか。

児倉 日本の書道では、基本的に、日本語の文字だけが書かれていると思いますが、シベの書道には、1つの作品に、3つの言語が盛り込まれるスタイルがあります。こちらが展示作品のサンプルです。中国語(文字)、満洲語(文字)、そしてシベ語(文字)。これは、シベ人の生活と密接に関わっています。シベ族は少数民族ですので、日常生活で常にいろんな言語と関わっています。彼らは中国語、ウイグル語、カザフ語、ロシア語など多言語を理解し、話すことができ、日常的にこれらの言語を使い分けて生活を送っています。シベ書道の作品にはそんな彼らの多言語共存のライフスタイルが込められているといえるでしょう。11月23日と24日に行う講演会では、格吐肯さんがどのようにシベ書道のスタイルを創作していったか、生い立ちからの生活との関わりも含めて話してくださるそうです。

山越 この書道展を主催する本研究所の「多言語・多文化共生に向けた循環型の言語研究体系の構築(通称:LingDy3)」プロジェクトでは、主にあまり研究がされていない言語や危機言語の調査をし、包括的な「記録」という作業を行なっていますが、児倉さんは、コミュニティと密に関わっているため、プロジェクトの中でも膨大な資料を持っていますよね。

児倉 はい、日本へ移民したシベ人の方々との交流も大事にしています。しかし先ほどシベ書道のお弟子さんがいないというお話をしましたが、シベ族の間では、言葉だけではなく文化的な知識の継承がうまくいっていないところがあって、この言葉がどのように受け継がれていくのかわかりませんが、ともに歩んでいけたらと思います。

山越 ありがとうございました。シベ書道展、貴重な機会ですね。今年はユネスコの定める国際先住民言語年でもあります。この書道展はまさにそれにふさわしいイベントですし、外語祭期間中でもあるので、ぜひこの機会にたくさんの方にお越しいただけたらと思います。

シベ書道の世界―格吐肯書法展―

開催日:2019年11月18日(月)~2019年11月28日(木)
開催時間:10:00–17:00 (11月18日 13:00–17:00、11月28日 10:00–13:00)
場所:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所資料展示室(1F)
出品作家:格吐肯(Getuken)
展示作品数:21点
その他:入場無料、予約不要

講演会

シベ書道(三語書法)の第一人者であり、今回の企画展に作品をご提供下さった、格吐肯(Getuken)氏から、氏がどのようにシベ書道を創生し、長年に渡り取り組んできたかを伺います。シベの人々は母語であるシベ語以外に漢語(中国語)やウイグル語など多くの言語を話しますが、氏の講演を通じ、シベ書道の背景にあるシベの人々の多言語生活に触れて頂ければと思います。
2019年11月23日(土),11月24日(日)13:30–(終了後展示解説ツアーあり)
格吐肯(Getuken)「シベ書道の創生」
場所:11月23日 AA研マルチメディアセミナー室(306)
11月24日 AA研マルチメディア会議室(304)
使用言語:日本語、中国語(日本語通訳あり)、参加費:無料、事前申し込み:不要

展示解説ツアー

会場にて、書家の格吐肯氏ご自身による展示作品の解説ツアーを開催いたします。
11月20日(水),11月21日(木),11月22日(金):13:30-
11月23日(土),11月24日(日):講演会(13:30-)終了後
使用言語:日本語、中国語(日本語通訳あり)、参加費:無料、事前申し込み:不要


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