TUFSグローバル・スタディーズ学会 スタート! 〜大学院生の研究者としての成長を育む全学の研究交流フォーラム〜

2020年度に、東京外国語大学の学内学会として「TUFSグローバル・スタディーズ学会(AGS)」が創設されました。今年3月14日に、創設を記念して第1回研究大会がオンラインで開催されました。学会について運営委員長の澤田ゆかり教授にインタビューしました。

運営委員長の澤田ゆかり教授にインタビュー

——「TUFSグローバル・スタディーズ学会」が創設され、2021年3月14日(土)に第1回の研究大会が開催されました。本日は学会運営委員長である澤田教授にこの学会のことについていろいろとお話をお伺いできればと思います。まずは、本学会は、どのような方が参加できる学会なのでしょうか。

専任の教員、本学の特別研究員、そして本学の博士後期課程に在籍している大学院生が参加できる学会です。

——学会の会員になるにはどうしたらよろしいのでしょうか。

博士後期課程の学生は、自動的に会員として登録されます。できるだけ多くの大学院生に、積極的に学会に関わって、さまざまな活動に参加してもらえたらと思っていますので、学会費の徴収もしません。大学院生と一括りに言っても各自の進路はとても多様なので、まずは研究者を目指している博士後期課程の学生を対象にしております。専任教員、特別研究員についても、会員資格は就任とともに自動的に付与されます。

——どのようなことがきっかけで学会の創設を検討し始めたのでしょうか。

もともとは本学の研究水準の向上を目標にして、ずいぶん前から創設の検討を開始していました。その当初は、教員だけを主な対象として考えていました。本学には、学内に研究所がいくつもあるのですが、それぞれの研究所が個別の専門分野ごとに研究を進めており、横の連携はそれほど活発ではありませんでした。いっぽうで本学の大学院は「総合国際学」と銘打って、既存の領域にとらわれない多様で柔軟な課題に対応するマルチディシプリナリなアプローチを特徴としています。この特徴を活かすために、研究所間の連携をはかることが以前から課題になっていました。そこで「総合国際学」を標榜できるような研究体制を作り、横のつながりを活かせるような共同セミナーや共同研究をおこなっていく、ということがスタートラインでした。そういった拠点があれば、海外との交流にも新しい着想を持ち込めるのではないかと考えています。

——そこに大学院生も対象として加えることになった経緯は。

学内学会の創設を検討するうちに、大学院生も同様に「横の連携不足」という問題を抱えていることが浮かび上がってきました。本学は、教員も大学院生も特定の言語や地域を研究対象とするケースが多いのですが、その結果として教員と院生が一対一の指導となり、研究室内の「縦の繋がり」が深くなるかわりに、研究室を超えた交流が頻繁になりにくいところがあります。大学院全体の「研究科」という大きなコミュニティと、「指導教員のもとで大学院生が指導を受ける」小さなコミュニティの間がない。この二つを取り持つような中規模コミュニティが必要なのではないか。自分の専門領域だけを意識して研究を行なっていると、その専門自体の位置づけが見えなくなりますし、専門外の人に対して研究の内容を伝える力が弱くなります。長い目で研究者の育成を考えるのであれば、ほかの研究分野の大学院生と交流する機会が案外大切だという意見が出てきたのです。

——研究交流をおこないながら研究指導体制を図っていくということですね。

さらに、将来的には学生も学会の運営に関われるようにしていきたいと考えています。たとえば、カリフォルニア大学バークレー校の”Berkeley Linguistics Society (BLS)”(言語学会)の運営体制がモデルの一つとして提起されました。この学会は、修士の大学院生が運営にあたっているそうです。教員が関与するのは、査読などプロフェッショナルな部分に限定されるようです。このような組織があれば、学生が指導教員との閉じられた世界で孤立することも防げますし、幅広い先輩方の事例を実際に見聞きすることで、大学院に進学してから修士論文、そして博士論文に取り組むための手順やタイムラインを覚えていくことができます。また学会の運営は、研究者としてのマナーやルールを身につけるためのとても良いトレーニングになります。学会報告のエントリーを受け付けたり助成金の獲得をサポートしたりする側に回ることで、初めて「研究の評価」の仕組みを実感することがあると思うのです。そういった経験は自分が査読論文を投稿したり助成金の申請を進めたりしていく際に役立つと期待しています。

もちろん最初から学生に丸投げするのではなく、教員が組織を立ち上げ大学院生がこれに加わることで、二人三脚で大会などを運営していきます。そうするうちに、運営の中核となる大学院生が育っていくだろうと考えています。学会の運営は学生にとっても大きなチャンスです。普段は接することがない分野や地域の教員と話したり、運営を通じてさまざまな研究者との繋がりができたりします。閉じた組織はハラスメントの温床になることもあるので、組織としての透明性を確保しながら、学生が運営に関われる体制を構築していきたいと思っています。

——今回の研究大会でも大学院生が多く発表されますね。

先ほど申し上げたように、本学の研究領域は既存の領域にとらわれないマルチディシプリナリーな特徴を持っています。そのため外大生の研究内容は、既存の学会の枠組とは必ずしもマッチしないないこともあります。その結果として、論文や口頭発表の機会が制約される可能性がある。研究においては、自らの発表にフィードバックを受けることで、論文を改善していくというプロセスが大切です。また単純に「慣れる」という意味でも、学会報告の場数を踏むことは有効です。今回は本学会で初めての大会ということもあり、知名度が実質ゼロだったので、報告に応募してくれる方がいないのではないかと内心心配していました。ところが実際に募集をしたところ、たくさんの大学院生から応募があったので、運営委員会は嬉しい悲鳴を上げることになりました。急遽分科会の数を3から4に増やして、できる限り多くの方が発表できるようにしたのですが、それでも枠が足りず、不採択としなければならない方がたくさん出たような状況です。このような事情がありますので、不採択になった方も決して落胆せず、来年度以降もぜひ応募してほしいと願っています。

——今後はどのような活動を計画されていますか。

小さな組織としてスタートし、大きく育てていきたいと思っています。既存の組織の活性化というところから創設の検討を始めたという経緯がありますので、まずは、語学研究所、総合文化研究所、海外事情研究所、国際関係研究所の4つの研究所が中心となって、連携を図り学会運営にあたる予定です。活動が軌道に乗ってきたら、学内の他の研究所にも参加していただけたらと考えています。

研究大会は、年に1度の開催を予定しています。今年度はコロナ禍の影響もあり、研究大会の開催が3月中旬となりましたが、ポストコロナになればこの時期は海外に行く予定の会員も多いでしょうから、調整する必要があるかもしれません。また研究大会の他に、学内研究所間の交流も促進できれば、と思っています。これまでは、指導教員が所属している研究所の活動に大学院生も参加する、というケースが多かったのではないでしょうか。しかし院生の研究テーマによっては、別の研究所で発表した方がよい場合もあります。研究所の枠を超えて学生が参加できるようなイベント情報を共有し、そして発表の機会につなげてもらう計画です。さらに論文の執筆に関しても、学会内でさまざまな教員や院生同士がより広い視野でプレビューできるような勉強会やサポートの場を設けていければと考えています。

——本日はどうもありがとうございました。

第1回創設大会開催報告

本学会の第1回創立大会は、2021年3月14日(土)にオンラインで開催されました。
言語学、言語教育、文学・文化、歴史学・社会科学の4つの分科会を設けて発表・討論が行われました。各分科会とも5つの報告と討論が行われ、148名の会員が参加しました。各分科会での報告者・題目、各報告への討論者は以下の通りです。

分科会1 言語学

司会:萬宮健策(総合国際学研究院・准教授)

報告1

袁姝(博士後期課程)「日本語の「不同意」に関わる談話研究の動向と課題」

討論:伊集院郁子(国際日本学研究院・教授)

報告2

高甜(博士後期課程)「「ノダ」文の文法的特徴と意味機能」

討論:川村大(国際日本学研究院・教授)

報告3

大河原香穂(博士後期課程)「フランコプロヴァンス語地域における名詞の数の体系―Atlas linguistique de la France『フランス言語地図』を用いた分析―」

討論:秋廣尚恵(総合国際学研究院・准教授)

報告4

川本夢子(博士後期課程)「謝罪表現と言語的「礼儀」:ポーランド語のケース・スタディ」

討論:匹田剛(総合国際学研究院・教授)

報告5

山本真司(総合国際学研究院)「イタリア語における分格代名詞と非対格仮説:研究の歴史を振り返って」

討論:川上茂信(総合国際学研究院)

分科会2 言語教育

司会:青山亨(総合国際学研究院)

報告1

守屋久美子(博士後期課程)「日本語教育非専攻の学部生を対象にした遠隔日本語教育実習における活動の学習環境デザイン」

討論:林俊成(国際日本学研究院・教授)

報告2

Onchoysakul Srikanlaya(博士後期課程)“Toward Syntactic and Lexical Features for Automated Scoring of Non-constructed Spoken Production by Thai (KKU) Learners of English”

討論:吉冨朝子(総合国際学研究院・教授)

報告3

Wiastiningsih(博士後期課程)“Translation Methods related to Japanese culture into Indonesian in Kawabata Yasunari’s Yukiguni”

討論:アリアン・マカリンガ・ボルロンガン(世界言語社会教育センター・特任講師)

報告4

モハンマド・ファトヒー(特別研究員)「アラビア語と外国語教育」

討論:長渡陽一(特別研究員)

報告5

西畑香里(世界言語社会教育センター)「大学院における通訳実習のあり方に関する研究 ―学内リソースを活用したコラボレーション授業の事例から―」

討論:内藤稔(総合国際学研究院・准教授)

分科会3 文学・文化

司会:水野善文(総合国際学研究院・教授)

報告1

田中あき(博士後期課程)「カイ・フン著『道士』(1944)日本軍進駐期の仏領インドシナで書かれた個人崇拝を戒める寓話」

討論: コースィット・ティップティエンポン(総合国際学研究院・准教授)

報告2

二階健次(博士後期課程)「東国の内海に潜む竜:『雲玉和歌抄』の蒙求題「漢祖竜顔」を手掛かりに」

討論:村尾誠一(国際日本学研究院・教授)

報告3

井伊裕子(博士後期課程)「19世紀ロシア写実主義グループ・移動展覧会における風景画の位置づけ スターソフの展覧会評を中心に」

討論:前田和泉(総合国際学研究院・教授)

報告4

楊柳岸(博士後期課程)「水上勉『瀋陽の月』における「満洲娼婦」を語る意味」

討論:柴田勝二(国際日本学研究院・教授)

報告5

石﨑貴比古(特別研究員)「天竹神社と崑崙人に関する一考察」

討論:吉田ゆり子(総合国際学研究院・教授)

分科会4 歴史学・社会科学

司会:武内進一(総合国際学研究院)

報告1

塚田浩幸(博士後期課程)「アメリカの百年戦争(18世紀半ばから19世紀半ばまで)―近世から近代への移行期における帝国間と帝国内の対立―」

討論:大鳥由香子(世界言語社会教育センター・講師)

報告2

Teeba M. Abdulati(博士後期課程)“Food insecurities: The impact of UN sanctions on Iraq’s food system”

討論:松隈潤(総合国際学研究院・教授)

報告3

(欠席のためキャンセル)

報告4

加藤慧(博士後期課程)「勇気尺度作成の試みーアドラーの勇気概念に着目してー」

討論:佐野洋(総合国際学研究院・教授)

報告5

大槻忠史(特別研究員)「お雇い外国人のみた戦前日本の食糧事情:E.F. ペンローズの統計調査とその意味」

討論:佐藤正広(国際日本学研究院・特任教授)

学会総会

分科会終了後には、総会も行われ、会則を採択し、学会執行部の選出や2021年度事業計画の審議が行われました。

各報告の要旨はこちらをご覧ください。

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