小説は冒頭、ブレーメン近郊のヴォルプスヴェーデにあるパウラの家を訪れるところから始まり、読者を物語へと誘い込む。「私」は画家の絵を求めてドイツ各地の美術館をめぐる。百十年前に、パウラがパリを訪れて、ルーヴルやサロン、ギャラリーを観てまわったように。かくして、「伝記」を執筆する「私」と対象であるパウラの「私」が、その主客の違いを超えて時に重なり合う。(本書「訳者解説」より)
本書「訳者解説」より
著者紹介
マリー・ダリュセック(Marie Darrieussecq)
1969年、フランス南西部バイヨンヌ生まれ。パリ高等師範学校卒業。1997年、ペレック、ドゥブロフスキーなど、四人の小説家におけるオートフィクションを分析した博士論文で学位を取得。その前年、1996年に小説『めす豚ものがたり』でデビューすると、「サガン以来の大物新人」として注目を集め、三十か国語以上に翻訳された。女性人物を中心に据えて文化的な紋切型を問い直すアフォリズム形式の試み『あかちゃん』(2002年)、自身が受けた「剽窃」の告発体験をふまえて引用という本質的行為に迫る文学論『警察調書』(2010年)を経て、『待つ女』(2013年)でメディシス賞を受賞。10編をこえる小説作品のほか、ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』のフランス語訳(2016年)、演劇やラジオ番組の製作など、その活躍は多岐にわたる。
訳者紹介
荒原邦博(あらはら くにひろ)
東京外国語大学大学院教授。専門は近現代フランス文学、美術批評研究。著書に『プルースト、美術批評と横断線』(左右社、2013年)、共著に『ジュール・ヴェルヌとフィクションの冒険者たち』(水声社、2021年)、『アンドレ・マルローと現代』(上智大学出版、2021年)、『プルーストと芸術』(水声社、2022年)、翻訳にヴェルヌ『蒸気で動く家』、『ハテラス船長の航海と冒険』(インスクリプト、2017年、2021年)、ミシェル・ビュトール『レペルトワールⅠ・II・III』(共訳、幻戯書房、2021年、2023年)などがある。
メディア・書評・紹介記事
・『読売新聞』2023年11月16日:女性が書く女性芸術家 仏独 作家の視点〔東京外国語大学読売講座〕
・『読売新聞』2023年11月19日:作家が捉えた「女性芸術家」 荒原教授・西岡准教授 仏独文学語る〔東京外国語大学読売講座〕
・『読売新聞』2023年11月22日:女性作家が書く女性芸術家の肖像――フランスとドイツ 裸体自画像に見た輝き 「女性が主体」追求と挫折〔東京外国語大学読売講座 詳報〕
・『図書新聞』2024年2月24日:「だから私たちは彼女に会いに行く」――魅惑的で、愛おしいオートフィクション 福島亮
・『週刊読書人』2024年3月15日:描く。やっと裸になった女たち――仕事と女性であることの“宿命”とのはざまで 山田文
・『美術評論+』2024年4月17日:「女であることの輝き」を夭折画家の“伝記”から読む幸せ 市原尚士
【イベント】
・東京外国語大学アゴラ・グローバル 2023年11月25日
連続市民講座「世界を学ぶ、世界を生きる」第7回「女性作家が書く女性芸術家の肖像——フランスとドイツ」
荒原邦博、西岡あかね
東京外国語大学、読売新聞立川支局主催
・紀伊國屋書店新宿本店3階アカデミック・ラウンジ 2023年12月13日
女性が芸術家になること—―フランスとドイツの女性作家が私たちに伝える希望と苦悩(トランスギャルド叢書『ここにあることの輝き』『それぞれの戦い』刊行記念)
荒原邦博、西岡あかね
トランスギャルド叢書『ここにあることの輝き パウラ・M・ベッカーの生涯』
マリー・ダリュセック(著) 荒原邦博(訳)
【ジャンル】
文学・文芸
【シリーズ】
トランスギャルド叢書
【版・頁】
四六変型判・上製・232頁
【ISBN】
978-4-910635-06-4 C0097
【出版年月】
2023年11月20日発売
【付 属】
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2300円(税抜)