無法者たちの死

先日乗ったタクシーでばったりレイと出会っていろいろ思い出してきた。

トトは殺された。酔っぱらって警察を刺し殺して射殺された。25か、26だった。子供が3人もいたのに。レイの子分でいろいろ悪いことをしていたのは知っ ている。最後にはレイにも逆らって、いうことを聞かなかったらしい。いつも上半身裸で、短パンをずり下げて、ビリヤード場あたりでたむろしていた記憶があ る。おれの姿を見かけるといつも金をせびってきた。50ペソ(100円)くらいあげると喜んで礼をいって去っていった。不良だったけど、かつあげじゃな い。ある時、自分をある呑み場へと招いてくれた。それまで話したことのない初老の夫婦が、薄暗くひどく狭い部屋の中でもてなしてくれた。彼らは誰だったの だろうか、もう覚えていないけど、トトとその夫婦の組み合わせがとても奇妙だったことはよく覚えている。そこで沢山安いジンを吞んだ。たぶんトトが買った 酒じゃなかったけど、彼なりの恩返しだったようだ。

ジエゴの子供は、17歳で酔っぱらって酒場でケンカして刺されて死んだ。2002年の時に学校いく前 の年齢だったから、たしかに今年にはもうそんな年か。親父のジエゴは、覚せい剤で目を真っ赤にして路地を徘徊して、酒ばかり飲んでいた。お母さんがもう一 人の子供を抱きながら、朝は新聞とタバコとキャンディを、夜はバロットを売って生計を立てていた。ジエゴの子供はいつも裸足で、鼻水を垂らして、あちこち をウロウロしていた。学校にも行ってなかったような気がする。鋭い目が印象的な子で、最近はあまり姿を見ていなかった。

全部ペッチャイアンで起きたことだ。

レイは50歳を越して、最近再婚をしたらしい。今はまともにタクシーの運転手をしているけど、昔は10代の不良たちを子分にして悪い噂が絶えなかった。ク スリのディーラーをしているというもっぱらの噂だった。いい年してチンピラで、イスラム教徒だと名乗り、いつも「サラマライコン!」と手を出して挨拶して きた。スラムで不良やチンピラがイスラム教徒になるのは、信仰心の問題ではなく、キリスト教への反逆なのかもしれない。彼はペッチャイアンでおれがはじめ て住んだ部屋の大家の息子で、ベニヤ一枚を隔てたすぐ隣の部屋に住んでいた。レイは、アシンやフレディ・アギラーのカセットテープを大音量で聴きながら、 夜な夜な覚せい剤をきめて母親と大声でケンカしていた。何で親孝行を説く「アナック」なんて聴きながら、そんなことやるんだよ? 何がなんだか分けがわか らなかった。

まさか、一昨日の夜にたまたま乗ったタクシーの運転手がレイで、こんなふうに昔の友人の死を知ることになるとは。

そういえば、レイテのナガからマニラに来たヨヨイも、何度もスリ(強盗?)を繰り返してとうとう警察に射殺された。「ブゴイブゴイ(無法者・不良・バカ者)の人生にゃ行き場がない。」 去年台風でボロボロになったレイテを訪れた時、ヨヨイの幼馴染のガーディはそう言っていた。