石松紀子 (2015) 『イギリスにみる美術の現在 ── 抵抗から開かれたモダニズムへ』 花書院

大学院の仲間がまたひとり本を出版しました。最近、出版ラッシュですごく嬉しいかぎりです。

タイトルには出ていないのですが、イギリスにおける「ブラック・アート」に関する本です。周縁化を余儀なくされた人びとが、その状況を打開すべく展開してきたアート活動。こんな閉塞感のある時代だからこそ、なおさら大事な想像力が詰まっているように感じます。私はイギリスのパンクとジャマイカのレゲエが融合した音楽が好きなので、そういう関心からもとても楽しめました。

それにしても、フィリピンのスラムだったり、沖縄のハンセン病療養所だったり、アイルランドの壁画だったり、イギリスの「ブラック・アート」だったり、ト ピックはバラバラなのですが、九大比較社会文化出身者の本は、どれも共通して六本松のアナーキーな雰囲気が濃密に漂っている。

お金もなかったし未来も見えなかったけど、本読んで酒吞んで街を徘徊して議論してケンカして、そんな自由な時間だけはひたすらあった。逆に言えば、それしかなかった六本松は、今や存在を許されないようなガラパゴス的な恵まれた研究環境だったのだと思います。

 
イギリスにみる美術の現在 抵抗から開かれたモダニズムへ

 石松紀子 (2015) 『イギリスにみる美術の現在 ── 抵抗から開かれたモダニズムへ』 花書院

序章
1 帝国主義と美術
2 イギリスの非欧米系美術
第1章 「ブラック」の社会的背景
1 イギリスにおける移民
2 結束する「ブラック」
3 「ブラック・アート」の契機−Blkアート・グループ
4 「ブラック・アート」の展覧会−1980年代初期から中期まで
第2章 非欧米系美術にみるコンフリクト
1 「2つの世界から」展(1986年)
2 「エッセンシャル・ブラック・アート」展(1988年)
3 「ブラック・アート」に関する意見の相違
4 非欧米系美術にみるコンフリクト−2つの展覧会より
第3章 別の物語としてのモダニズム
1 「別の物語」展(1989年)
2 欧米における非欧米圏の美術受容−「20世紀美術におけるプリミティヴィズム」展(1984年)と「大地の魔術師」展(1989年)
3 「別の物語」展の出品作品
4 別の物語としての「モダニズム」
第4章 非欧米系美術に対する文化政策
1 イギリスが無視する芸術
2 大ロンドン市の文化政策(1981−86年)
3 英国アーツ・カウンシルの文化政策(1986−89年)
4 「エスニック・アート」から「文化的多様性」へ
5 inIVA(国際美術機関)と「文化的多様性」の展開
第5章 「主流的」な美術傾向
1 1980年代イギリスの「主流的」な美術傾向
2 1980年代の国際的な美術傾向−「ステイト・オブ・アート」展(1987年)
3 1990年代の「イギリス美術」
4 現代美術のナショナル・ブランド化
第6章 文化的差異の表象
1 ブラック・アートにみる「表象の重荷」
2 多文化社会における非欧米系美術
3 イギリス美術と文化的多様性に関わる美術
4 文化的差異の表象−福岡市美術館の展覧会より
第7章 抵抗から開かれたモダニズムへ
1 「ブラック・アート」の意義と衰退
2 閉じられたモダニズム−非欧米系美術の周縁性
3 ポストモダニズムからグローバル化時代へ
4 開かれたモダニズムへ−「未完の物語」
結びにかえて