ジェームス・スコット『実践 日々のアナキズム──世界に抗う土着の秩序の作り方』清水展・日下渉・中溝和弥 訳、岩波書店

ジェームス・スコット著『実践 日々のアナキズム──世界に抗う土着の秩序の作り方』(清水展・日下渉・中溝和弥(訳)が岩波書店から出版されました。原著タイトルは、Two Cheers for Anarchism でしたが、いろいろ相談してこうしました。

身の回りを見渡すと、工場、農場、売上、戦争、都市、教育、人間といった、ありとあらゆるものの生産性や効率性を数値化し、管理し、最大化しようとする「公式の秩序」に取り囲まれていることに気が付きます。そこでは計画者の立案するグランドデザインが社会秩序の規範です。そして、これを推進してきたのは近代国家と企業です。

しかし、この近代化のプロジェクトは、人びとが身の回りの者たちと日々の関わり合いのなかから、しばしば暗黙の了解によって作り上げてきた「土着の秩序」を破壊してきました。秩序を作りだす人間の相互性、自律性、創造性は失われ、誰かが作ったルールを盲目的に遵守することがばかりが求められているように思います。

こうした社会が、どれだけ人間の生の豊穣さを削り取ってきたことは改めて言うまでもないでしょう。

スコットのいうアナキズムとは、国家を否定するものではなく、むしろ一般の人びとが自らの自律性、相互性、そして尊厳を抱きながら、国家に依存することなく、自ら秩序を作り出していく実践を擁護する思想です。言い換えれば、卓越した知的エリートによる完璧な計画よりも、民衆の協働による絶え間ない試行錯誤(失敗と学びの繰り返し)を擁護する立場です。

生活のあちこちで進む管理化と効率化に息苦しさを感じる一般の人びとにも気軽に読んでもらえるよう、できるだけ分かりやすく、心を込めて翻訳しました。尊厳と自律性をもち、他者との関わり合いを楽しみながら、与えられた数値を満たすためだけに必死に頑張らなくても暮らせるような、もっと生きやすい社会秩序を考えるための手かがりになると思います。