卒業生・学生×学長 多言語で新型コロナウイルスに関する情報を発信する ~COVID-19 多言語支援プロジェクト~

東京外国語大学の在学生と卒業生を中心として結成された「COVID-19 多言語支援プロジェクト」。首都圏に暮らす外国人の方々に向けて、新型コロナウイルス感染予防や公的支援に関する情報を多言語で配信する活動を4月21日より本格的にスタートしました。
当初はやさしい日本語と英語のみの対応でしたが、本対談を行った2020年5月18日には、韓国語、簡体字、繁体字、スペイン語、フランス語、ベトナム語、アラビア語、イベリアポルトガル語の10⾔語で、その後、6月1日現在、新たにドイツ語とタガログ語、インドネシア語を加えた計13言語で情報発信を行っています。プロジェクトについて、林佳世子学長が、中核メンバー7名にオンラインでお話を伺いました。

林佳世子学長(以下、「学長」)
石井暢さん:代表。2020年3月国際社会学部フランス語専攻卒業、9月より英国エディンバラ大学アフリカと国際開発学修士課程進学予定(以下、「石井さん」)
山口萌さん:外国語記事原稿作成統括。2020年3月国際社会学部フランス語専攻卒業、9月より英国サリー大学進学予定(以下、「山口さん」)
今田詩衣香さん:日本語記事原稿作成統括。2018年3月言語文化学部朝鮮語専攻卒業、2020年3月大学院博士前期課程(国際日本専攻)修了、4月より国際交流基金勤務。(以下、「今田さん」)
武藤珠代さん:日本語記事原稿作成統括。言語文化学部英語専攻在学中(以下、「武藤さん」)
板場匡史さん:広報担当。2019年3月言語文化学部フランス語専攻卒業。東京大学大学院人文社会系研究科修士課程2年(以下、「板場さん」)
今関友里香さん:スタッフ担当。2020年3月言語文化学部スペイン語専攻卒業、9月より英国ロンドン大学ゴールドスミス校キュレーティング修士課程進学予定(以下、「今関さん」)
川西帆波さん:外国語記事原稿作成統括。2018年3月言語文化学部フランス語専攻卒業、2019年9月まで英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン応用言語学専攻修士課程修了(以下、「川西さん」)

オンラインインタビューの様子

プロジェクトを始めた経緯

学長 まずはこのプロジェクトを始めた経緯を教えていただけますか。

石井さん

石井さん このプロジェクトは、新型コロナウイルスに関する情報やさまざまな経済的支援制度などについて、政府や大手メディアから配信された情報を多言語に翻訳して、主に首都圏の在留外国人の方々に向けて発信するプロジェクトです。私はもともと、このような感染症に限らず災害時の情報発信のあり方について関心を持っていて、今回新型コロナウイルスの感染が広がっていく中で、外国人の方々がどのように情報を得て生活をしているのだろうかということを気にかけていました。3月の中旬くらいに、イギリスから東京外大に留学している友人から、「政府が外国人に発行したビザの効力を停止した」というニュースについてメッセージをもらいました。留学生の間で、自分たちは国に帰らなければいけないのではないか、もう日本にいることができないのか、という不安やパニックが広がっていると聞いて、少し自分でそのことについて調べてみました。すると、日本に既に入国をしている人には特に影響はなくそのまま滞在できることがわかり、留学生たちが心配するようなことはなかったのですが、「ビザの効力が止まる」という表面的な情報だけが広まって、具体的にどういった影響があり、どういった行動をとらなければならないかという最も重要なことが抜けていることがわかりました。ただでさえ政府の対応が毎日流動的に変わっていく中で、外国人の方々が安心して安全な生活を続けるために必要な情報を得られるよう、外大生として何かできないかなということを考え、Facebookで仲間に呼びかけてこのプロジェクトを始めました。

学長 拝見するところ、とても組織的に運営されているようで感心しますが、全体では何人くらいのチームでやっているのでしょうか。

石井さん 中核メンバーは8名で、そのほかに情報の収集や翻訳などで関わっているボランティアスタッフの方々が70名ほどいらっしゃいます。その多くを東京外大生や卒業生が占めていますが、他大学の方や一般の社会人の方も中にはいらっしゃいます。Facebookなどで呼びかけをした他、東京外大の社会連携事業として組織されている言語文化サポーターからも多くの方が参加くださり、協力していただいています。

学長 情報の正確性の確保など難しい問題もあると思いますが、どのように工夫していますか。

石井さん 「情報の正確性」という点は、本当に一番気にしているところです。災害時などは特にそうですが、間違った情報を手にした結果、間違った行動をしてしまい、ひいては命を脅かすような状況になることもあるからです。日本語の情報をまとめる段階では、一次ソースである行政などが発信している情報を元として、補足するような形で二次ソースとして大手メディアが発信している情報を複数箇所から取ってまとめていきます。さらに、まとめた情報の内容に誤りがないかといったことを必ずチェックをするようにしています。その後、日本語原稿を各言語に翻訳する際も一度訳してもらったものをネイティブの方かネイティブレベルの言語能力を持った方が、文法や語彙、伝わる意味などに間違いがないかチェックしています。そのチェックが終わった段階で、初めてウェブサイトへ掲載します。このように、情報収集から記事掲載までのあらゆる段階において、情報の正確性を担保するため複数回のチェックを設けています。

学長 そのような配慮をしながら作業をし、発信していただいているのは、本当にありがたいと思いますし、大切なことだと思います。

多文化共生と情報発信

学長 反響はどうですか。

石井さん TwitterなどSNSでの情報拡散で、多文化共生に関する仕事に従事している方々にも注目していただき、プロジェクトへの賛同の声やウェブサイト周知へのご協力をいただきました。ただ、外国人の方々のもとに届けたい情報が届いているのかという点では、まだ課題は多いと感じています。プロジェクトの目的であるその部分が達成できなければ、我々の自己満足に終わってしまいますので、今後は普段から外国人を支援していたり、交流の機会を作っていたりする地域のコミュニティにも積極的に声かけや働きかけをしていきたいと思っています。

学長 ウェブサイトが見やすくてわかりやすく、とてもキュートにできていますね。

「COVID-19 多言語情報ポータル」サイトのトップページ。言語が選択できるようになっている。

今田さん

今田さん もともとサイト構築の知識があった訳ではないので、かなり試行錯誤の上で作成しました。通常のウェブサイトとは違って多言語、それも10数言語で展開していますので、「最初にアクセスした時に言語を選べるようにして、それから階層的に知りたい情報のカテゴリを選んで…」というように、中核メンバーの間で構想をしながら作りました。見やすさという点では、例えば「やさしい日本語」にはふりがなをつけているのですが、パソコンとスマートフォンのどちらで見ても見やすいかどうかなど、いろいろなデバイスや視点を活用して作りました。

学長 とてもシンプルだけど、情報にたどり着きやすくなっていて、よくできていると感心しました。今、10言語(※対談当時)ですけど、今後も増えていくのでしょうか。

石井さん 他に、ブラジルポルトガル語とインドネシア語の2言語で、すでに作業にあたっています。まだいつ公開できるか決まっていないのですが、おそらく近々公開できるのではないかと思っています(※対談後、ドイツ語、タガログ語、インドネシア語で新たにウェブサイトを公開しています。ブラジルポルトガル語は引き続き準備中)。ほかにも本学の萬宮健策准教授にもご協力をいただき、ウルドゥー語の準備も進めています。

学長 サイトを見て、「この言語も入れて」という声が結構届くのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

山口さん

山口さん 翻訳原稿を作るアウトプットチームのリーダーを私と川西の2人で行なっているのですが、現在作業を進めている15の言語だけで50人を超えるスタッフの方々がいらっしゃり、とりまとめはなかなか大変です。他の言語からも是非参加したい、対応してほしいというお話をいただくのですが、運営管理との兼ね合いで2、3週間お待たせしてしまっている状況です。

学長 これから仲間を増やしながらさらに充実していくと良いですね。若い皆さんが言語能力だけではなくて、企画力や交渉力などを駆使してこのプロジェクトを運営されているのに感動しました。

板場さん

板場さん このプロジェクトでは、外国人の方々に情報発信をすること自体はもちろんですが、災害時に体系的に外国語で情報発信をすることの重要性を日本人の方々に伝えるということも、大切な目的としています。その2つをうまく連携させてやって行くのはなかなか難しいところもありますが、広報担当の私としては、そのためにメディア戦略が大切だと思っています。外国人の方々に情報を届けるということは、単にSNS などで拡散されることとは違います。先ほど石井が話したように、国際交流協会などの地域コミュニティに働きかけるほか、国内外問わずメディアに取り上げてもらえるように意識し、普段から多文化共生の分野にアンテナを張っている人を読者としているようなメディアへのアプローチをかけるようにしています。

学長 すでにいろんなメディアに取り上げられていて、必要な人に届けるために、とてもよかったと思います。卒業生の皆さんが大学で学んだことを誇りに思って、「自分たちが学んだことが社会でこんな風に役に立つ」ということを意識して、それを形にしようとしてくださっていることを本当に嬉しく思います。外大スピリットですね。

今関さん

今関さん プロジェクトをスタートしてメディアでも取りあげられた結果、たくさんの方がボランティアを申し出てくださり、高いモチベーションを持って作業を続けてくださっています。携わってくださっている方の協力があって初めて成り立つプロジェクトですのでスタッフの皆さんへの感謝の気持ちがすごく強いです。日本語も堪能なネイティブの方の協力も得ています。そうしたプロジェクトの体制から日本の多文化共生社会について学べることがあるのではないかとも個人的に感じております。

川西さん 様々なバックグラウンドの方がいる中で、それぞれの状況や得意なことに合わせて作業をまとめていく過程の大変さを感じています。同じ連絡をしても伝わり方が人によってものすごく違うため、ひとりひとりに合った対応を心がけています。

川西さん

武藤さん 日本語で一つの原稿を作るという作業だけでもとても時間がかかります。情報の正確性や分かりやすさを考えれば考えるほど、どんどん自分の中で沼にはまってしまうようなところもあります。いろいろ試行錯誤の連続ですが、プロジェクトを通じて学ぶことは多いです。

学長 ところで、皆さんの中には、これから海外の大学院に進学される方も何名かいらっしゃいますが、これから海外に行く、海外で学ぶことについてどう思いますか。

今田さん 大学院修士1年の時に、国際交流基金の大学連携日本語パートナーズで半年ほどフィリピンに行かせていただきました。海外の研究機関の環境を知るということは、自分の研究や将来のキャリアを考える上ですごく刺激になるのではないかと思います。大学院の間に海外に行く人がもっと増えればいいなと思っています。

武藤さん

今関さん 今年の秋から海外大学への入学を予定していた人の中には、入学延期を検討する人も多くいると聞きます。私も心配しながら今回のパンデミックの様子を見守っているところです。もしかしたら私が進む大学院でもオンライン授業が継続される可能性がありますが、それでもいずれは渡航できるのでないかと思っています。多様なバックグラウンドの上に成り立つ社会を生きていくために、留学の経験は活きてくるのではないかと思っています。

学長 本学でもこの新型コロナウイルスの影響で、長期派遣留学で戻って来ざるを得なかった学生が300人くらいいました。そのうち100人を超える学生が帰国してからも留学先のオンライン授業を受けて続けていますし、本学から母国に帰国した交換留学生の中にもたくさんの方が本学の授業をオンラインで受け続けています。今回の新型コロナウイルスはこれまでの世界を一変させましたが、教育現場でも同様です。とは言っても現地に行かないと感じられないこともたくさんあるので、皆さんの海外留学が無事実現し、現地での大学院生活が充実したものになればと願っています。

プロジェクトの今後

学長 今後について考えていらっしゃることはありますか。

石井さん 今後も外国人の方々に向けた情報発信を続けますが、今後はより、経済的な支援制度へ情報のニーズが移っていくと思います。行政が出している情報をそのまま切り取って翻訳し貼り付けるだけでは、冗長で重要な部分が見えにくい発信になってしまいます。そこでまずは、外国人の方々が今どのような状況に置かれているのか、そしてその方たちがどういった行動を起こせばその後適切な支援を得ることに繋がるのかといったことをじっくり考えた上で、一人ひとりがまず何をしたらいいのか当事者に正しく伝わるようなきめ細かい情報の整理や発信を心がけていきたいと思っています。また、外国人に対してだけでなく、日本人の間でも、災害時に限らず、多言語での情報発信の重要性とそのあり方について考えを深めてもらう議論のきっかけを作っていければいいなと思っています。

学長 小人数でずっと続けていくことは難しいかもしれませんが、ぜひ仲間を増やして頑張ってくださいね。そして、やがてこの感染症の拡大が終焉することを祈っています。本日は本当にありがとうございました。引き続き頑張ってください!


「COVID-19 多言語情報ポータル」サイト

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