シリーズ「東京外大って…実際どうなの?」第1回「第一志望の語科じゃなかったけど…」

東京外国語大学には言語文化学部・国際社会学部・国際日本学部の3つの学部がある一方で、「語科」という単位は、未だに学生生活を送るうえでの1つの軸になっています。「語科」は、外国語学部時代の名残であるとともに、学部を問わず対象とする地域の言語を身につけ、直接現地の生の情報に触れることで、対象地域の社会における課題の本質を見極めることができるという理念から設けられています。入学前から興味を持っていた国や地域の語科に所属し、そのまま専門的な学ぶ学生もいる一方で、定員や合格のための作戦で、必ずしも希望の語科に決まるわけではないのも事実です。今回はセンター試験/大学入学共通テストの結果を受けて、出願先の語科を変更した3人の学生に座談会形式でインタビューを行いました。彼らは入学後、どのような学生生活を送ってきたのでしょうか?

座談会参加者

石川航(いしかわわたる)さん:国際社会学部東南アジア第2/ビルマ語4年
加藤瑞希(かとうみずき)さん:国際社会学部東南アジア第2/タイ語2年
鈴木佑理(すずきゆうり)さん:言語文化学部インドネシア語3年

※以下、それぞれ「」、「」、「」と表記する。

インタビュー・取材担当
  • インタビュー
    言語文化学部英語4年 朝妻亮子(あさづまあきこ)さん
    言語文化学部ドイツ語4年 太田愛美(おおたあみ)さん
  • 記事執筆
    国際社会学部東南アジア第2/ビルマ語4年 山本哲史(やまもとさとし)さん

とにかく東京外大に

——入学までの経緯、入学が決まった当時の心境などをお聞かせください。

 元々ロシア語志望でした。理由は適当だったんじゃないかな(笑)。友達に「東京外大行けば?」と半分冗談で言われて、いろいろ調べていくなかで東京外大に決めました。入試のときのレベルで入りやすいのが東南アジアの語科だと聞いて、そこに決めました。インドネシア語にしたのは半分適当です(笑)。東京外大に行きたいのが第一だったので、語科にこだわりはなかったです。

 国際協力をやりたくて、最初はアフリカ地域志望でした。『風に立つライオン』という映画を見てカッコいいなと思ったのがきっかけです。語科を変えたのは、センター試験の英語と数学があまり振るわなかったからです(笑)。東南アジアの語科の方が多少入りやすいと聞いたのと、国際協力がやりたいのが一番だったので語科にそこまで拘わらず、前向きな気持ちで出願しました。ビルマ語はミャンマーのGDPを見て選びました。

 元々はスペイン語専攻を考えていました。スペイン語は世界でも話者が多くて、自分の可能性が広がるんじゃないかと思ったからです。でもセンター試験を受けてみて、目標点と比べて厳しいかなと思ってしまいました。東南アジアなら日本の企業が多く進出していて、将来の可能性を考えたいという私の考えに合うので、東南アジアに決めました。東南アジア第1、 第2とあって、そのなかでも言語で順位を決めなければいけないのは難しかったです。日本企業の進出を考えたらタイやベトナムが上位にきたのでそこにしたんですけど、入学までは正直タイのことはほぼわからない状態でした。東京外大にとにかく行きたくて、多言語を学んでみたいとも思っていたので、とにかく東京外大に受かったことが嬉しかったです。

きっかけはショートビジット?それとも授業?―コロナ禍以前、以後

——最初の1年間は必修の専攻語の授業も大変かと思いますが、1年間を過ごしてみていかがでしたか?

鈴木さんがSVで訪れたジョグジャカルタ近郊の某所

現地で食べたナシゴレン(nasi goreng)

 入った直後は、専攻語を学んでいても実感がありませんでしたが、1年生の夏休みにショートビジット(短期海外留学。以下「SV」)でインドネシアに行って、こういうものを学んでいるんだなって。語学以外の授業は入学当初から楽しかったです。東京外大は授業内容が特化しているから、自分の興味がドンピシャな人は楽しいのかな。

——石川さんはいかがでしたか?

 最初にビルマ文字の一覧を渡されて、次の授業までにこれを覚えてきなさいと言われて、すごく悲しかったのを覚えています(笑)。文字を順番通りに覚えなければいけなかったんですけど、僕は順番通りには覚えてなくて、ホワイトボードに書きなさいと言われて困りました(笑)。あまり覚えが良くないので、文字を覚えるのは苦労しました。

1年生の夏にヤンゴン大学へSVに行って、語学力が上がった実感はなかったですが、現地の人との交流があって、帰国後も彼らと交流があったりして、ミャンマーが身近になりました。思い出が増えるにつれて、語学は「勉強」という感じではなく、楽しみながらほどよい距離感でやるようになりました。

——加藤さんは、1年目はいかがでしたか?

 春は全部オンラインだったんですけど、特に会話の授業は、オンラインでも楽しくやれるように工夫をしてくださりました。慣れない文字でしたけど、会話から入ったことが楽しかったです。

——みなさん、言語の授業に対する苦手意識はそこまでないですか?

 ロシア語科やアラビア語科のような、普段の授業やテストが比較的厳しいと言われている語科の話を聞くと、インドネシア語科はそこまでではないかなと思います。

 1年生の春学期は大変でした。SVのヤンゴン大学の授業も、すべてビルマ語だったのでよくわからなかったです(笑)。

 タイ語は声調とかが難しい言語なんですけど、みんなで練習するのが楽しくて。高校まではストレスを感じながら授業や勉強をやっていたんですけど、春学期の授業からとにかく楽しんでやっていました。

——大学生活で、自分がどこに軸を置いていくか決めたきっかけや時期はありますか?

 まだ探っていますが、SVはターニングポイントだったのだと思います。愛が芽生えるというか、無条件で推せる地域ができました。

——専攻語の地域に行くと学んでいることが見えるのが良いですよね!

 それはどこに行ってもそう思うのかなと。行ったら好きになる。嫌いになることもあるかもしれないけど(笑)。僕は日本より好きです。

——どういうところが好きですか?

 人がおおらかで、良い意味で雑。空港みたいな所も意外と緩くて、窮屈じゃなくていいなと。勤勉というよりは、ほどよくラフな方がいいなと思いました。

——石川さんは元々国際協力をやりたいと決めていたと思いますが、何か軸を決めるきっかけはありましたか?

 こうして聞かれると、もう少し軸を置いておけばよかったです(笑)。楽しいことをいろいろやったり、いろいろな人と交流できたらいいかな。僕もSVは大きかったです。

石川さんお気に入りの場所で、ヤンゴンの人気観光スポットでもあるシュエダゴンパゴダ。

——行く前と後で印象は変わりましたか?

 行く前はよくわからない国という感じでしたが、現地に行くと愛着もわきますし、帰国後はやりたいことが少し明確になりました。

——印象に残っていることはありますか?

 ホスピタリティというか、人が温かいところが良いなと思います。寮で友達がビルマ語を教えてくれたり、ご飯をごちそうしてくれたり、過ごしやすい国だと思います。ミャンマーも良い意味で雑なところがあるのですが、だからこそ許し合いみたいなところがあるのかと思います。そういう意味でも生きやすい国なのかな。

——加藤さんはいかがですか?

 タイ語やタイについての勉強ができてよかったと感じています。タイに対するイメージは、日本企業も多く進出していて、東南アジアのなかでも発展しているというくらいの認識でした。ただ実際は、格差の問題、移民の受け入れや、外国人労働者の問題があったりします。元々私が日本の外国人労働者問題に興味があったこともあって、タイでもそういうことがあるんだなって。ゼミも東南アジア地域研究を選びました。移民や外国人労働者受け入れの問題を東南アジアの視点で研究してみたいです。

留学生との交流は自分から動くことが大切

——入学後に感じたギャップはありますか?

 国立大学の学生は真面目で勉強しかしないイメージがありましたけど、そんなことはなくて、普通に遊ぶし勉強もする。大学で勉強できることに関しては、高校の頃は漠然と言語について学ぶと思っていたけど、いろいろあるじゃないですか。例えば音声学とか。こんなオタクなことが学べるのかと驚きました。

——鈴木さんは言語について突き詰めて学んでいらっしゃる一方で、石川さんは適度な距離感でやっているというお話でしたが、具体的にどのようなスタンスでのぞんでいらっしゃるのですか?

 留学も考えていたので、目標はあるなかでやっていました。なので、語学に対して後ろ向きではありませんでした。東京外大に入ってくる人は、語学そのものに対しては抵抗がない人が多いと思うので、楽しみつつやるのも良いのかなと。ただ、1年生の授業は、気乗りしない人もきちんと学んでおくといいと思います。やっていくうちに好きになる人もいますし、基礎を固めておくと、進級の不安もなくなると思います。

——石川さんは入学後のギャップはありましたか?

 学食でいろいろな国の料理があると思っていたんですけど、そういうわけでもなくて、値段も意外と高いのがギャップでした(笑)。あと、授業に留学生が沢山いると思っていたんですけれど、意外と日本の学生が多いなと。そのため、私の場合は英語を使う機会もあまりない気がします。あまり英語が得意ではないのでありがたくもあるのですが、英語力が伸びるのかなと思っていたので、少し悲しくもあります(笑)。

 留学生とは関わろうと思って行動しなきゃ交流はできませんよね。自分から動かないといけないと思います。

——確かにそうですよね。ただ、東京外大は、本当にいろんな国からの留学生がたくさんいるので、自分から積極的に動きさえすれば、気軽に留学生と交流することができる環境が整っていると言えます。加藤さんは留学生との交流はありますか?

 タイの留学生とZoomで交流する機会がありました。この夏にも縁があって、東京外大のタイ人留学生たちとの交流もできました。そういう人たちとの繋がりは大事にしたいです。

——加藤さんは入学後に感じたギャップはありましたか?

 大きなギャップは感じませんでした。東京外大に興味をもったのは、高校1年生のときに、オープンキャンパスに行ったのがきかっけでした。「ここなら自分はもっと頑張れるんじゃないか」って直感的に思いました。それまでの自分は「世界で働く」みたいなことは考えていませんでしたが、オープンキャンパスで、この大学に世界を感じる!みたいな(笑)。実際に入学してみると、初めのうちは1つの言語に集中するので、そんなに多くの世界の地域のことをやれるわけではないというのは感じたのですが、他の言語の授業もとれるし、元々やりたかったスペイン語は「教養外国語」として学べています。

——多言語を学びたいっておっしゃっていたので元々外国語が好きなのかなって思っていたんですけど、そうではなかったんですね。

 そうなんですよ。オープンキャンパスに行ったのが大きかったです。あのときオープンキャンパスに行ってなかったら私はどこの大学に行ってたんだろうって思います(笑)。

せっかく学んだからには

——みなさんのお話を聞く限り、結果的に今の語科になって良かったと思っていらっしゃるのかなと思うのですが、卒業後なども専攻語の地域に何かしらの形で関わっていきたいという思いはありますか?

 これが東京外大の平均だと思って欲しくないんですけど、会社に就職したくなくて、自分の力で生きていきたいと思っています。例えば翻訳家とか。スーツを着る仕事が嫌なんです(笑)。日本だとインドネシア語はマイナーな扱いを受けていますけど、人口は日本よりもはるかに多くて、決してマイナーではない。一方、日本でインドネシア語がわかる人はそれほど多くありません。せっかくインドネシア語を学んだので、それをいかした仕事が出来たらいいなと思っています。

——石川さんもお話聞かせていただけますか?

 ビルマ語を専攻して結果的に恵まれているなあと思います。特に人には恵まれていて、緩い雰囲気かつ先生との距離も近い。入学当初はミャンマーにそこまで思い入れはありませんでしたが、今はミャンマーへの思いも生まれて、今の語科になったのは偶然であっても意味があったのかなと思います。ミャンマーは今年2月1日のクーデター以降大変な状況ですが、それを受けてミャンマー支援の活動もしていて、新しい形でミャンマーと関わることができています。今後も国際協力の面や、来年からは大学院での研究で貢献できたらなと思います。

——支援は例えばどんなことをされているのですか?

日本ミャンマー未来創造会の活動に参加する石川さん

 ビルマ語科の有志グループがあって、セミナーや写真展などのイベントをやっています。それとは別に在日ミャンマー人の方々と募金活動もやっています。

——加藤さんは、まだ2年生ということもあって答えるのが難しいかと思いますが、今後、タイ語やタイとの関わりはどうお考えですか?

 せっかく学んできたことなので、タイ語は卒業後も勉強し続けていきたいし、タイで働ける機会があったらいいなと思います。まだタイに 行ったことがないので、留学に行ってみてまずはタイを感じるのが先なのかなって。海外派遣があるような企業に就職して、東南アジアで何か貢献できたらと思います。

——タイに行けるようになったら、やりたいことはありますか?

 留学できたら、まずはタイ語能力を向上させたいです。さらに、現地の大学で東南アジアの移民や労働の問題を学べる授業をとってみたいです。現地でのインターンも考えていて、日本企業がタイ人とかタイの文化や経済をどう考えているのか知りたいなと思っています。

語科選びはどうしたらいい?

——最後に、語科選択をするうえでの受験生に向けたアドバイスやメッセージなどあればお願いします!

 語科選びは、蓋を開けてみないとわからない。元々強い志があるなら別ですけど、受験するときになって迷うなら、些細なきっかけでもいいんじゃないかなと思います。

 入学前の段階ですごく難しい選択を迫られていると思います。どの語科に合うのかは、入ってみないとわからないし、本当に小さい理由でもいいと思うんです。私は結局変えましたけど、知らないことを知ることができるのがすごく楽しいので、どの言語でも自分は楽しめていたんじゃないかな。入学前にすごい大きな決断をしなきゃいけないと思わなくてもいいと思います。不安に思うかもしれないけど、直感を信じてみるのがいいんじゃないかな。

加藤さんは大学でタイ語やタイについて学ぶようになって、タイ料理をよく食べるようになったそう。

——実際入ってみて、やりたいことが4年間の中で変わることもありますしね。石川さんはいかがですか?

 希望と違う語科になっても、長くやれば楽しいこともあるし、そんなに悲観的になる必要はないと思います。ビルマ語はマイナーと言われていて、ネット掲示板などでは「マイナーな言語なんてやってどうするんだ?」とか「語科カーストがある」といった書き込みもあると聞きますが、実際はそれぞれの学生がやりたいことを自由にやっているという感じです。そういう情報に惑わされる必要はないと思います。

 すごく同意できます。「マイナー言語なんて…」と言っている人は、知らないだけだったりする。東京外大は言語や文化の多様性に理解のある人が多いので、「そういう考え方良くないよ」という雰囲気もある。自分がどうしたいのか?に向き合って決めればいいと思う。

—— 私自身が、受験のときに、「自分の興味の無い言語を選ぶと苦労するよ」とよく言われていたんですが、不安に感じる受験生も多いと思うんです。その点はいかがですか?

 そういうことを言う人の中には、東京外大出身じゃない場合も多いじゃないですか。いろいろなことを言う人がいますが、すべて鵜呑みにする必要はないと思います。

 勉強熱心な人も多くて勉強しやすい環境だと思いますし、専攻語を極めることがすべてではありません。ゼミや専門科目もいろいろな種類があります。ビルマ語専攻になったらずっとビルマ語をやらなければならないということもない。いろいろな選択肢も開けてくると思うので、楽しくやれると思います。

——皆さん、本日はご協力ありがとうございました!

大学からひと言

「「偏差値」や大学入学共通テスト(センター試験)の結果を見て、語科を決めた」というのは、学生の皆さんからよく聞く言葉です。ですが、大手予備校などが発表するそれらの数字が、実はそれほど正確ではないのも事実です。大学では、毎年、募集単位ごとの合格者の最高点・最低点を発表しています(「一般選抜 募集単位別合格者成績状況」)。よく見ると、募集単位の間に大きな隔たりはありませんし、「順位」は毎年大きく変動します。インタビューにありますように、ぜひ、自分の興味や小さなひっかかりを手がかりに語科を選んでもらいたいと思います。選んだ国や地域への愛が、きっと芽生えます!

インタビュー後記

インタビューにご協力いただきありがとうございました。志望とは違う語科に入られた場合も、そこで予期していなかった学びや出会いがあり、新しい世界が広がるのだと、皆さんが楽しそうに話す姿を見て思いました。そして、それぞれの語科ごとにカラーが異なる点が外大の魅力的な点だと改めて実感しました。受験生の皆さんは語科・地域選びに不安に思うかもしれませんが、最終的に自分が選んだ語科・地域が正解になっていくと思います。インタビューにもあるように、選ぶきっかけは些細なことでも大丈夫なので、ワクワクする気持ちを大切に語科選びをしてください!
取材担当:朝妻亮子(言語文化学部英語4年)

取材に協力していただきありがとうございました。皆さん専攻語の地域の魅力を見つけ、楽しそうにお話されている姿が印象的でした。今回お話を伺った3人以外にも、入学してみたら専攻語やその地域に愛着を持つようになったという学生が本学には多いと思います。入学前から専攻語を決めなければいけないことを難しく感じる方もいるでしょうが、思い切って自分の直感に任せてみてもいろいろな出会いや、可能性が広がっていくのだと感じました。
取材担当:太田愛美(言語文化学部ドイツ語4年)

まず、出願先を変えたことを話すのに抵抗感のある方も多くいらっしゃる中で、取材にご協力いただけたことを嬉しく思いました。それぞれ違った形で、専攻語の地域との関わりを深めていて興味深かったです。SVで渡航できた世代の2人が、SVを大きなきっかけに挙げていたのが印象的だった一方で、未だ渡航が叶わない加藤さんも、授業をきっかけに興味を持ち、オンラインで留学生との交流を試みているということで、当たり前に渡航できていた世代の自分としては頭が下がるばかりでした。
一方で、石川さんの言葉にもあったように、必ずしも専攻語やその地域について究めるのが全てではないなと思いました。今後の企画では、違った形で道を切り開いている学生にも取材をするつもりです。「ちょっと話を聞いて欲しい」という程度でも構いませんので、学生取材班にお声がけいただけると嬉しいです。
取材担当:山本哲史(国際社会学部東南アジア第2/ビルマ語4年)

前のページに戻る

to top - トップに戻る