アンクティル=デュペロン著 『インド歴史地理研究・全2巻』

Abraham Hyacinthe Anquetil-Duperron,
Recherches historiques et geographiques sur l’Inde, 2 tomes
(Berlin:Pierre Bourdeaux, 1786-7)

当館請求記号:N/225/502097/1,2
(貴重図書室配架) 

本書は、二百十数年前にフランス語で書かれ、ベルリンにおいて刊行されたインド研究書である。続き番号の頁付けを持つ2冊によって構成され、第1冊目がタンジャヴールのマラータ編年史、第2冊目がガンジス河流域地誌となっている。国立情報学研究所のWebcatで調べる限り(2001年10月20日現在)、本邦でこの本を所蔵するのは、本学だけである。

 15世紀末にポルトガルがインド航路を発見し、ゴアに拠点を構えて以降、初期のインド情報は、ポルトガル語とカトリックの宣教師達が用いたラテン語によってヨーロッパに伝えられるようになった。18世紀中葉を迎えるとイギリスとフランスとのあいだで植民地争奪戦が激化し、その過程では英語のみならずフランス語でも多くの文献が生み出されたのである。結果として、インドにおいて覇権を確立したのはイギリスであったために、18世紀末よりインド情報を伝える媒介言語は、もっぱら英語に収斂してゆくこととなった。本書は、まさにそうした支配権力と言語規範の転換期における産物なのである。

 著者のアンクティル=デュペロンは、ヨーロッパにおけるインド・イラン研究の先駆けとして歴史に名を残す人物である。ペルシャ語訳されたウパニシャッドの紹介やゾロアスター教教典のアヴェスター研究に先鞭を付けた人物としてもっぱら知られているが、彼の関心は単にそれにとどまらず、インド誌研究の全般に及んでいた。この本は、その精華に他ならない。刊行の時期からして、記述の端々よりは、未だ形成期にあったフランス東洋研究の様相のみならず、初期オリエンタリズムの内実が窺い知れる。

 本学附属図書館には、本書の他に Legislation orientale (Amesterdam: Marc-Michel Rey, 1778)[当館請求記号:N/322/502096] と L’Inde en rapport avec l’Europe (Paris:Moutardier, 1798)[当館請求記号:N/225/502099] が架蔵されており、彼の主要な著作は、他大学の蔵書と合わせれば、本邦において、ほぼ全てが閲読可能となっている。

 (ヒンディー語専攻:藤井毅)

※図書館より※
今回紹介の資料は、すべて貴重図書室に配架されています。カウンターへ請求・手続きすることで閲覧は可能ですが、貸出はできませんのでご注意下さい。 

2001年10月22作成

*この資料は、2002年10月まで「今月の1冊」として紹介されていたものです*