日露ビジネスサマースクール 2018

2018年7月17日(火)から同27日(金)までの約2週間の日程でサマースクールを開催しました。ロシアの協定6校から総勢29名の学生が来日し、本学の学生と交流しながら集中的に日本語と国際日本学を学びました。終了直後に行ったアンケート調査によると、全員が「他の人にもぜひ薦めたい」と回答し、満足度の高さがうかがえる結果となりました。 以下に詳細をレポートします。

沼野恭子教授(事業責任者)による歓迎の辞

開講式
到着翌日の午前中、ロシア人学生を迎えて留学生日本語センターの「さくらホール」で日露ビジネス・サマースクールの開講式が執り行われました。開講式では沼野恭子事業推進責任者から歓迎の言葉が述べられたあと、新井滋プログラムコーディネーターによるガイダンスがありました。     (
※上の画像は、開校式の様子)

初日のウェルカムパーティ

学生らはその後、昼食をはさんで集中講座「日露タンデム学習」に参加、夕方は日本人学生らと交流を兼ねたウェルカムパーティーを本学の食堂で開催しました。サマースクールの初日ということもあり、最初は遠慮した空気もありましたが、あたりが暗くなるにつれ、両国の学生にとって賑やかな夜となりました。

日露タンデム学習
ロシア人学生らは来日翌日から日露タンデム学習を開始しました。学生らはいずれも日本人学生とペアを組み、7月17日、19日、20日の三日間にわたって参加しました。

タンデム学習は参加者の自主性と互恵性をベースに置きつつ、いずれも各自の学習(及び目標の達成)に責任を持ち、パートナーはその手助けを行うものです。従って、ロシア人学生は日本語を実際に活用し、日本人パートナーからフィードバックと協力を受けることができます。それは日本人学生も同様です。 

タンデム学習の初日、まず参加者らはパートナーとロシア語で、のちに日本語で意見交換を行いました。パートナーとの会話から得られた知識と情報を基に参加者らは学習言語で短い作文を用意しました。タンデム学習の初日、学生らはなぜその言語を選択したのか、どんな困難を感じているのかをテーマとしました。19日はその前日に行われた「一日文化研修」の印象をテーマに、20日は自由選択のテーマにタンデム学習を行いました。執筆後、参加者らは作文を交換し、添削を開始しました。添削後、参加者はパートナーを前に音読し、発音修正を行いました。最終的に参加者らは8人からなるグループに分かれ、作文を発表し、フィードバックや質問を受けました。

左は1対1のタンデム、右は8人ずつのグループ発表の様子

タンデム学習のメリットはロシア人学生が日本人学生と自然にコミュニケーションしながら言語を使用できることにあります。それは日本人との交流であると同時に、個人の学習目標を立てることでもあります。参加者らは指導を受けるのみならず、ネイティブスピーカーと会話をすることもできます。スケジュールなどの制限を受けるにせよ、参加者らはパートナーとディスカッションする内容を比較的自由に選択できます。つまり、個人の必要や目標に応じて議論の内容を調整することが可能です。ロシア人学生のレベルには幅があったため、この学習形態はなおのこと重要でした。基礎的なテーマにフォーカスをあてる学生もいれば、上級レベルの内容に取り組む学生も見られました。

学生からのフィードバックの大半が肯定的なものでした。ロシア人学生は日本語を使わざるを得ない状況を特に楽しみました。間違いを即座に直してもらえる利便性も高く評価されました。

タンデム学習に参加した日露の学生全員で記念撮影

一日文化研修

「タンデム学習」の一環として7/18日(水)と7/21日(土)にロシア人留学生はタンデム学習のペアである日本人学生と共に東京の文化施設や観光地を周遊しました。

浅草にて

7/18日(水)の午前中は都庁の南展望台で東京という大都会を一望した後、バスで移動し浅草寺と仲見世通りを観光しました。東京の風景や伝統的な街並みを実際に目にしながら、日露両学生は学んできたロシア語及び日本語で目に入ってきたものを説明する難しさを実感したのではないかと思います。学習言語(つまりロシア人学生は日本語、日本人学生はロシア語)で相手の説明がうまくいかない場合、自らの言語(ロシア人学生はロシア語、日本人学生は日本語)でフォローすることにより、学習言語の適切な表現を学ぶことができたと思います。午後はバスで移動し両国にある江戸東京博物館を訪れました。ここでは江戸時代から現代に至る庶民を中心とした住居文化が紹介されています。展示空間も工夫されており、インターネットや写真、映画などで目に触れる日本の庶民文化が時系列で理解できるようになっています。そのため、ロシア人留学生にとって日本文化の一端を知ることができたようで、文化研修訪問先で最も役立ったというアンケート結果が得られました。

江戸東京博物館にて

7/21(土)の午前中は明治神宮を訪問しました。建物を見物するというよりも、その周囲を歩いて神社建築の雰囲気を満喫するかたちになりました。当日は30℃を超える猛暑でしたが、木々に囲まれ雑踏から離れた神宮の静けさを感じることができたのではないでしょうか。明治神宮からレインボーブリッジを通ってアクアラインのサービスエリア(海ほたる)で昼食を取りました。食事を取りながら東京湾を眺め、ウォーターフロントとしての首都東京を留学生は肌で体験できたと思います。昼食後は葛西臨海水族園へ移動しました。この頃になると、日露両学生はタンデム学習の課外活動に参加しているというよりも、お互い打ち解けて単純に会話を楽しむという雰囲気になっていました。文化施設訪問当初は意識して「学習言語を使う」という感じが見られましたが、自然とコミュニケーションを取りながら、知らない表現や単語を教えてもらうというタンデム学習を、両学生は意識せずに行うようになっていました。文化施設を訪問することで、単に知見を広げるにとどまらず、そこで受けた印象をどうやって直に伝える/表現するかということを日露両学生は得られたのではないかと思います。

葛西臨海水族園にて

国際日本学

7月23日(月)から27日(金)にかけ、15コマ(1コマ=90分)からなる集中講義「国際日本学」が行われました。日本についての知識を深めてもらうためのもので、理解度を高めるためロシア語での授業を提供しました。日本をテーマに、ビジネス・経済、国際政治、日露交流史、文化(伝統芸能等)の領域をカバーしています。この講義には本学のロシア語専攻学生にも門戸を開きました。これにより、(難しいものの)日本にいながらロシア語の本格的講義を聴くことができ、自国について改めて関心を持ち、ロシア語でどう説明するかの学習の場となりました。さらに日露の学生とのグループワークもあり、タンデム学習に続く交流の機会ともなりました。

ポダルコ先生の講義

初日である23日は、新井滋(本学特任教授)がこの講座のガイダンスと本学の沿革、そして世界展開力強化事業について説明しました。それに続いてポダルコ先生(青山学院大学教授)が日露交流史を講義しました。この講義では、日露両国の人的交流の歴史が扱われ、時折日本と他の外国との二国間関係と比較しながら説明が行われました。日露交流が日本の外交関係でどのように位置されているかということを、他二国間関係との比較や豊富なスライドの説明によって学生たちは理解を深めることができました。

イスマイーロフ先生(左)とグループ発表をする日露の学生(右)

24日はイスマイーロフ先生(本学非常勤講師)の講義が行われました。この講義は「日本が世界をどのように見ているのか」というものでした。先生から日本外交政策のガイドラインが説明され、それを基に日露の学生がグループごとに議論し、それを皆の前で発表するという授業形態が取られました。

25日は企業訪問が行われました。詳しくは「企業訪問」のレポートをご覧ください。

グレチコ先生の講義

26日はグレチコ先生(本学非常勤講師)による日本の伝統芸能に関する講義が行われました。能や歌舞伎が主に紹介され、実際の演目や舞台装置、衣装の説明が映像資料と共に説明されていました。我々日本人でもわかりにくい能や歌舞伎も、舞台装置やそれを利用した演目、またはお面による演じられる人間の心象を知ることができたので、実際に訪れて観劇したいという学生がいたようです。

ストノーギナ先生の講義

27日はストノーギナ先生(明治大学特別招聘教授)による「日露ビジネスカルチャー」の講義が行われました。実際に日露経済協力の現場で働かれている観点から、「対露経済協力8項目」など、いくつかのキーワードでこの協力関係を説明しました。また、日本が推進すべき対外経済戦略もお話しされたので、対日ビジネスを志そうとするロシア人留学生にとって有益だったと思われます。

最後に新井特任教授が日本の多国籍企業の概要とそのロシア市場への進出事情を具体的なケーススタディ方式で解説しました。

一日企業研修

国際通貨研究所にて

「国際日本学」の一環でロシア人学生らは一日企業研修を行いました。25日の午前中、学生らは国際通貨研究所を訪問し、阿南鉄朗氏による英語の講義を受けた後、三菱UFJ銀行のディーリングルームを見学しました。講義の中では東京銀行の前身・横浜正金銀行が日本の経済発展において果たした役割について歴史的背景を踏まえたお話がありました。学生からは、日銀が実施するマイナス金利政策の影響について質問があがるなど、活発な意見交換の場となりました。

NHKでの収録後の記念撮影

その後、学生らはNHK放送センター(渋谷)を訪問し、国際放送局多言語メディア部職員による事業紹介、および報道番組「NHK WORLD RADIO JAPAN」の紹介を受けた後、ロシア人放送専門家A・モナコワによる講義「ロシア人ジャーナリストの目で見た日本」を受けました。講義後は放送センターに隣接する「スタジオパーク」内の「ふれあいスタジオ」で番組収録「リスナーと共に:日本の夏」(7月29日オンエア)に参加しました。ゲストとして参加した学生らは日本の夏について新鮮な印象をロシア人アナウンサーらと共有しました。学生らが日本放送協会を訪問した様子はラジオ番組「モナコワ・レポート:ロシア人学生を紹介」(8月19日オンエア)で詳しく紹介されています。

閉講式